佐伯さんと、ひとつ屋根の下
I’ll have Sherbet!
著者:九曜 イラスト:フライ
今回はラブコメ書かせたら堺市No.1の作家、九曜氏の「佐伯さんと、ひとつ屋根の下
I’ll have Sherbet!」全5巻です。
高校二年生の春、ひとり暮らしを始めるはずだった僕こと弓月恭嗣は、何の冗談か不動産屋の手違いで、ひとつ年下の佐伯貴理華さんなる女の子と同居するはめになってしまった。やたらと距離を縮めてきたがる彼女に、ささやかな抵抗を続ける僕だったが、なんと彼女も同じ高校! 学校でも家でも彼女に振り回される日々が始まって――。常に冷静な弓月くんと、とびきりの美少女なのにちょっとHな佐伯さんが繰り広げる同棲&学園ラブ・コメディ、開幕です。
上記が第1巻の公式あらすじです。
不動産屋の手違いで、美少女と同居生活が始まる……。これぞラノベ!これぞラブコメ!的な、超ご都合主義な展開から物語は始まります(全力で褒め言葉)
そしてのっけから佐伯さんの好感度もマックス!(笑)
地味というよりはストイック過ぎる主人公、弓月くんが独り暮らしを始める原因が、この物語全体を通してのテーマに繋がって行くのですが、それは徐々に明かされていきます。
正直、見た目以上にどんどん話は重くなっていきます。重くなっていきますが、厳しい現実も、天真爛漫な佐伯さんとの甘い生活でコーティングされているので、気楽に読み進めることができます。だからこそ弓月くんが本当に現実に気づいた瞬間の後悔と悲壮感は、相当な苦しさを読者に共感させると言えるでしょう。
同棲&学園ラブコメと銘打ってますが、これは弓月くんと家族、あるいは弓月くんの心の再生物語です。そして彼と出会った佐伯さんが、懸命に恋をするお話でもあります。
確かに奔放でちょっと「ぇろい」佐伯さんも非常に魅力的ですが、決してそれだけでは語り尽くせない物語です。作中、様々な話が錯綜し、他の九曜作品ともリンクしていきます。
ちなみにこの「ぇろい」という表記が、一時期仲間内でブームになったと九曜氏にお伝えしたところ、「あまりヒロインが口にする単語ではないので、それでもかわいく言わせるための造語(?)ですね」とのことでした。
重いと書きましたし、実際志賀直哉の暗夜行路的なストーリーなのですが、美少女との同棲という、有り得ない甘い設定なので、悶絶必至で楽しく読むことができます。甘々なだけに、途中での佐伯さんとのすれ違いの部分は胸が痛くなります。それを始め、様々なトラブルを乗り越えたエンディングを迎えた時に、ああ、この物語に出会えて良かったと読者は感じることでしょう。
ライトノベルという括りではなく、現代文学として、とても上質な作品だといえます。
本来のタイトルであり、特に意味はなかったと作者がインタビューで応えていた「I’ll have Sherbet!」の回収も秀逸でした。イラスト担当の超人気絵師フライ氏の挿絵も素晴らしい作品です。