本日ご紹介するのは「かへ」原作・藤井慶 作画・平井志です。
片田舎で漁師を営みながら穏やかに暮らす老夫婦に届いた悲劇の一報。そこから右も左も分からない東京での暮らしがはじまる。
1部公開時には4日で120万PVを記録した感動の話題作。全3部。
文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品。フランス・スペインでバンドデシネとして発売。★2018年パリのジャパンエキスポにて受賞!★ACBDアジア最優秀作品賞を受賞しフランスで発売された日本・アジアの漫画の頂点に★2019年マンガ界のカンヌ「アングレームコミック祭」にて受賞!BDGest’Arts賞!
数年前Twitterのタイムラインに流れてきて第一部は読んでいました。漁村で漁師をする老いた父と、食堂を営む母。そんな夫婦に突然東京で暮らす息子夫婦が事故死したとの知らせが届きます。残された幼い孫を連れて田舎に戻ろうとした二人ですが、些細な偶然がきっかけで息子夫婦のカフェを継いで行くことになりました。タイトルの「かへ」とは「カフェ」の訛った言い方です。
塞翁が馬というのは、個人的に嫌いな言葉ですが、この物語はその故事成語が一番しっくりくるような気がします。息子夫婦が若くして亡くならなければ、老夫婦は遠くに住む孫との関係がここまで深まることもなかったでしょうし、カフェに集っていた若い人たちとの出会いもありませんでした。もちろん息子のカフェを継いでかへを営むことなどなかったでしょう。
三部作の物語ですが、作品内では10年以上の歳月が経過します。幼かった孫も大きくなり、かへを始めた時点でもう若くはなかった夫婦もより年老いていきます。しかし若くして亡くなった息子夫婦は、あの頃のままで、どこか遠い場所からかへとなったカフェと、そこに集う人たちを見守っているような読後感を持たせてくれる作品です。
どんな時も現実を受け入れ、老いても諦めることなく強く生きて行く両親と、その親を心から尊敬し愛していた息子の想いがラストのカットで伝わってくるような気がします。見逃してしまいそうな「Cafe Crab Creek」というカフェの名前は、母が営む「『蟹江』食堂」と同じでした。
決して幸福なお話ではありませんが、心に残る物語です。アンリミテッド会員は無料で読めます。