RAILWARS!
著者:豊田巧 イラスト:バーニア600
今回ご紹介するのは、RAILWARS! 日本國有鉄道公安隊です。
出版社のゴタゴタがあり、本日(2020年6月27日)現在、今の出版社から出ているJノベルライト版の14巻以降は可能ですが、旧出版社であるクリア文庫版1~13巻の電子書籍は購入できません。しかし出版社のサイトでは、新刊発売に合わせて、13巻までの電子書籍も購入可能だとアナウンスがありましたので、まもなく全巻購入ができるようになります。
RAILWARS!は、国鉄が分割民営化されなかった世界の物語です。
親方日の丸企業である国鉄に運転士として就職し、安定の人生を送りたい主人公、高山直人は、難関を(なぜか)突破し、国鉄OJT(企業内教育)のメンバーに選ばれます。意気揚々と研修に臨む直人ですが、今年のOJTは、全員鉄道公安隊に配属されてしまいます。
厳しい訓練をクリアした直人は、東京駅の公安隊に配属されるのですが、初等訓練時に因縁が生まれた三人とも同じ部署で、学生が関わるレベルではない、様々な事件に巻き込まれ、結果的に全国の公安隊の中でも、頭角を現していきます。
平穏無事を信条とする直人とは対照的に、大事件が起きることを願い、やたらと発砲したがる桜井あおい、同じように暴れることが大好きで、脳みそまで筋肉で出来ている岩泉翔、脅威の学力・記憶力を有する小海はるかの四人は、友情と恋愛感情を育みながら、巨大な敵と対峙していきます。
最初の敵は赤字を生み出す国鉄の分割民営化を望むRJですが、武力闘争に舵を切ったRJとの戦いは、徐々に熾烈になっていきます。物語が進むなかで、RJの背後に、経済的発展が止まらない日本をよく思わない、アメリカの影が見えてきます。やがて直人たちは、日本の流通の大動脈である国鉄を分断すれば、経済も失速すると目論むアメリカとの戦いにシフトしていきます。
正直、スケールが大きくなりすぎて、読者的には着地点が見えなくなっている感はありますが、それでも非常に面白い作品です。
この作品の魅力は、何よりもその世界観でしょう。
国鉄が分割民営化されなかった世界。ローカル線一路線たりとも廃止はされていません。それどころか新線すら開業しています。各地に伸びる新幹線網は現在のように発展していますが、引き替えに消えたり3セク化された在来線も、そのまま存続しています。クルマや飛行機、新幹線との戦いに敗れて消えた夜行列車も健在、また国家企業なのでリニア線も営業開始直前です。
ただ国鉄が慢性的な赤字を抱えているのは事実で、特に地方では、現実では廃止された古い車両が現役で走っています。それもまたこの作品の魅力となっています。
RAILWARS!は、国鉄時代を知っている人にはたまらない、憧憬に満ちた世界なのです。そこに美少女と戦闘の要素まで入っているのですから、娯楽としては非常に完成度の高い作品に仕上がっています(アニメはなかったことにしてください)
国家規模の大企業だけに、セクト主義も横行し、正義を貫こうとしても、ままならない事態が多々あり、直人たちはそのジレンマの中で、人として、企業人として、少しずつ成長していきます。最初のぼんやりと国鉄に就職したいと願うだけの高校生、高山直人と、国鉄とお客様を危険にさらす敵との戦いを決意した直人では、別人のようなメンタルとフィジカルになっています。
巨大国家企業国鉄は、様々な問題を内包しています。この物語はそれでも国鉄を愛する現役職員と、学生OJTの成長の記録なのです。
追記:1~13巻もキンドル版、購入可能でした。申し訳ありません。