Kindle本レビュー

山の音 / とり・みき

今回ご紹介するのは「山の音」(とり・みき著)です。

とり・みきさんといえば勝手にギャグマンガを描かれている方だと思い込んでいました。そしてこの「山の音」という題名が、大好きな川端康成の長編小説と同じだったので、川端作品をコミカライズしたのか?と思ってダウンロードしてみました。

読んでみると全然違いました(笑)

ナンセンスギャグからシリアス系、映像作品の脚本・原作まで幅広い活動を展開する漫画家、とり・みきのSF・ホラー作品集が電子書籍として待望の復刊!

航空会社に務める狩野忠は、恋人である伏田英理の実家がある九州の山村を訪れた。帰郷した英理が音信不通となったためだ。英理の実家を訪ねるが、本人には会えず、英理の母親から「この土地の者との縁組が決まった」と伝えられる。狩野は英理に会おうとするが、仮面をつけた異形の者から「殺されるぞ。あの山伏のように……」と警告を受ける──。(表題作「山の音」より)

表題作の「山の音」は、SFなのかホラーなのか、あるいは怪奇譚なのか、一言で表現するのが難しい作品です。古事記などの基礎知識があった方が楽しめる内容ですが、根本的な部分では恋愛というか悲哀の物語だったように思えます。



この作品が荒唐無稽なホラーと一線を画すのは、歴史的な裏付けが物語の根底にあると読者に思わせるストーリーと、単に一人の探偵役が事件の真相に辿り着くのでなく、自衛隊という国家的な組織が絡んでくる点のリアルさでしょう。

突然音信不通になった恋人を探すために九州の閉鎖的な村を訪れた主人が、決して諦めずに真実にたどり着く過程で、恋人の実母など、敵だと思っていた人間たちの真実も見えてきます。そして個人ではどうすることもできない歴史の闇、歴史の真実を明らかにすることで、恋人がいなくなった理由が白日の下になります。

それでも主人公は恋人を諦めません。恋愛という根本的な部分を読者も忘れそうになる展開ですが、主人公はラストシーンで「あんたの一族や神がどうなろうが、国家がどうしようが僕には興味がない、僕にとっては…これはただの三角関係にしか過ぎないんだ」と言い放ちます。

果たして主人公の想いは通じるのか。山の音とは何なのか。結論はみなさんで確かめてください。キンドルアンリミテッドで無料レンタル可能です!





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