本日ご紹介するのは「神作家・紫式部のありえない日々」D・キッサン著です。
34歳。陰キャ。サブカル女。シングルマザー。しかし彼女には才能があった――!! 世渡り下手の才女・紫式部は、夫を失って以来、悲しみを癒すべく創作活動に打ち込んでいた。描き上げた作品が話題になり、界隈で神作家として知られはじめ、ついに宮仕えのお声がかかり…。慣れない人間関係に翻弄されながらも任された仕事は中宮さまの家庭教師――!? D・キッサンが描く平安コメディ最新作は紫式部!!
紫式部が源氏物語を綴った背景を描いた作品ですが、彼女は自らの作品を「同人誌」と呼んでいました。 あくまで同人誌。夫を失った寂しさを紛らわせるために書いた物語を友だちに見せたら「面白いから本にしたら?」と勧められ、その気になって個人出版しただけでした。
しかし作品のデキが良かったため、彼女の噂は広まっていき、ついには宮仕えのお声がかかります。私はただ同人活動がしたいだけだ!とだだをこねる紫式部ですが、父に説得されて嫌々宮中に向かいます。
腐女子である同僚小少将さんに助けられ、宮中の暮らしにも慣れた紫式部ですが、ある日清少納言の枕草子を読んでしまったためスランプに陥ります。源氏物語の続きが書けなければ、宮仕えはクビ、父と弟も出世の道が閉ざされる状況なので、何とか新作をひねり出した彼女ですが、中宮彰子に桐壷更衣のモデルが中宮定子だと気づかれてしまいます。
これ、実はめちゃくちゃ重要なポイントなんですよ(桐壷更衣のモデルが中宮定子という説は2014年に出版された山本淳子氏の「平安人の心で『源氏物語』を読む」で筆者は初めて読みました)また紫式部が宮中で処世術とした「インテリっぽさを隠す」行為も事実だったようで、そのストレスが源氏物語執筆のモチベだったとも言われています。
このように一見すると荒唐無稽なコメディのように見える本作ですが、下敷きになる部分は紫式部日記などを相当研究されているのが伝わってきます。もちろんコメディとしても面白いのですが、源氏物語や紫式部についての知識があったらさらに楽しめる作品です。
この時代だったらもうおばさんではなくおばあさんの紫式部ですが、作中では若々しく描かれている彼女の表情や行動も魅力的です。本当にオススメの一冊です。