本日ご紹介するのは「今やれ、今: 夏目にーに漫画短編集」夏目にーに著です。
全ての創作者へ。
読んだら「今やろう!」とやる気になる漫画をテーマにしてます。
美術教師と生徒の問答は『これは、どの分野でもそう』と多くの共感の声がありました。
twitter,noteで話題になった話をまとめています。
作者は画家で教員、そして漫画家らしいです。「私立高校の美術教員をしながら、絵とマンガを描く人」とプロフィールには書かれています。教育や漫画を通して「今やろう!」とモチベーションを与えられる人を目指しているそうです。
個人的に読後の感想は、主人公である美術教師に対して「本気で思ってんのかよ?」という懐疑的なものでした。上っ面の教育者じゃないの?生徒に対して、本当に描くことを続けて欲しいと思っているの?って印象です。
もう一度読み返して感じたのは、この人(主人公ではなく作者)は、ある意味吹っ切れた人なんだなってことでした。
創作者に関しては少なくとも二種類が存在すると思います。自分の創作が何より大切で、他人なんかどうでもいい。自分が一番じゃないと気が済まない人、創作活動そのものが好きで、他人の創作も尊重していける人の二つです。
作者は後者ですが、ぼくは明らかに前者でした。教育実習で美術部に出入りしたんですが、明らかに才能のある生徒を見て、正直悔しいと思ったのを覚えています。もし教員になっても、こいつらの才能を伸ばすような指導なんてムリだと直感しました。
だからこそ一読目の印象になったのでしょう。
しかし現実として作者や主人公のような教師は存在するのです。存在するというか、むしろマジョリティのような気がします。
美少女ゲームですが、今年解散した戯画というメーカーが「アイキス」というシリーズを発売していました。美術高校が舞台のお話です。そのアイキスの前日譚に「キスアト」という作品があります。アイキス1の5年前が舞台です。登場するヒロインは4名。美術的才能豊かな美少女3人と、その一人と親友だけど、彼女たちのような突出した能力はない女の子。
この作品を読んで、その子を思い出しました。
努力は怠らないし技術もあるけれど、どこか凡庸な彼女は、他の才能豊かな女の子たちとの差に、悩んだり落ち込んだりします。卒業後それぞれ画家であったりその道のプロとして売れていくのですが、彼女は美術教師という道を選びました。指導者として美術に関わっていこうと彼女は決めたのです。
そのエンディングを見た時に、それでいいの?と正直思いました。自分より技術もないのに若いというだけで可能性がある連中を相手に、この先ずっと教師なんかできるの?って気持ちです。
創作活動に関して、他人に構ってる余裕なんて、少なくとも俺にはない!って感じていたので、そういう感想を持ったのですが、キスアトを繰り返しプレイするうちに、彼女の選択を肯定できるようになってきました。
その彼女と作者というか主人公の姿が重なって、二回目以降の感想になった訳です。
正直な話、ぼくはこの作品を読んで創作について心を動かされることはありませんでした。それは真摯に受け止める素直さも若さも情熱も失ったからでしょう。だけど多くの迷ってる人には響くだろうなとは思いました。
作ること、ものを生み出すこと。頭の中にあるイメージと自分の手が紡ぐ創作物との乖離をいかに埋めるのか。そこに悩んでいる人、もうムリだと諦めそうな人に読んで欲しい一冊です。
今回は第1集のみのレビューというか感想なのですが、この短編集は5巻まで出ています。2巻からはここまで書いた1の感想を、良い意味で裏切ってくれます。特に2集は、ぼくのような燻っている自称創作者にめちゃくちゃ刺さる内容になっています。
今回も個人的ルールで1集のみの紹介になりましたが、5集まですべて読んでほしい作品です。