本日ご紹介するのは「日本をゆっくり走ってみたよ」吉本浩二著です。これは1巻と2巻がセットになった合本です。
連載作品が終了し、ぽっかり時間が空いた、漫画家の吉本浩二先生は、日本一周バイクの旅に出た。全国にいる大学時代の友達、昔のアシスタントに会い、吉本さんの胸に去来するものは何か? しかし最大の理由は、忙しくてなかなか会えなかった憧れの女の子に会うためだった。彼女の住む宇都宮にて、吉本さんは誓う。「日本一周して強い男になって、彼女に告白する!」彼女に読まれたらヤバい旅先の話まで赤裸々につづる、すべて実話の旅日記。
≪憧れのEさんに告白するため、日本一周して強い男になる!≫ 。『ブラック・ジャック創作秘話』も大好評の、36歳漫画家の体を張った旅日記。第2巻では、沖縄からひらすら北を目指します。途中で寄った実家の富山で起きた大事件が、吉本さんの旅に大きな影響を与えます。そして旅を終え、Eさんの住む宇都宮へ。吉本さんの想いは届くのか? 大注目の完結編です。
こういうと元も子もないのですが、拗らせた童貞が自分勝手な思惑からバイクで日本を一周し、ゴール後好きな女の子に告白するという、ただただ痛い物語です。アラフォーにもなって何をやってるんだ、十年早くやらんかい!それでも遅いけどな!と叱咤せずにはいられない内容が最初から最後まで続きます。
物語には微塵も共感できません。
「36歳独身」という自己紹介を1コマ目に持ってきて、ダメ人間っぽいキャラ設定をしているのに、行動力がめちゃくちゃあるんですよね。そして日本全国にいる大学時代の友だちに卒業後何年も経っているのに連絡が出来て、会って貰える人の良さ。お前、いい人じぇねぇか!何でそんなに拗らせた?と声が出そうです。
共感できないというのは、そういう意味です。ぼくなんか大学時代の友だちに連絡したら絶対にマルチか宗教の勧誘だと思われるもんね!(自信たっぷりに)
ただ彼が感じる同級生との心や状況の乖離は少し理解できる気がします。物語冒頭、さっそく主人公は「人はそれぞれ毎日の生活がある」ことに気づくのです。その生活からはみ出したというか、そういう暮らしに最初から選ばれなかった(選ばなかったのではなく)彼の心境が少しずつ変化していく過程が描かれた、文字通りのロードムービーだと思います。オッサンですが、この旅によって、少しずつ成長していくのです。
好きな女に告白(求婚に近い)をすることが目的の旅なのに、時々風俗に寄ってしまうのも人間らしくて好きですし、様々な出会いによって新しい考え方を知り価値観が広がっていく主人公ですが、女性を射止めるほどは成長できなかったような気がします。
そもそもの出発点が明後日の方向を向いていたんですよ。バイクで日本一周することで自信を付けて強い男になるなんて思い込みを、Eさんが受け入れるか否かなんて考えもいないのです。バイクで日本を一周するのは、非常に勇気のいる、素晴らしい行為です。でもその先に「強い男になる」なんて目的を加えたことが、童貞的ミステイクだったなぁと残念に思うのです。強い男になるか否かなんてのは結果なんですよね。
この作品(合本で読む場合のみですが)は、一応ハッピーエンドです(笑)どんなハッピーエンドなのかは、ご自身でご覧になってください。否定的なレビューをしましたが、お話としては面白いです。真面目にオススメです(笑)共感するしないは個人の感想なんで、あなたにとっては素晴らしい一冊かもしれません。
ただ童貞思考は十代のうちにケリをつけておかないと、本当にしんどいなと再認識した作品でした。