今回ご紹介するのは「スラム団地」松田奈緒子著です。
日本に団地がにょきにょき建ってた1970年代。子どもは今よりワンパクで、大人は今よりタフだった!団地っ子の団地っ子による、ときどきじんわ~り、のち爆笑!な1冊。
日本が敗戦を迎えたのは1945年の夏で、1970年とはそんな焼け野原から25年しか経過していない事実にまず驚きます。戦後10年ちょいの1956年に「もはや戦後ではない」と宣言し、その数年後に池田内閣が「所得倍増計画」をブチ上げ、さらに数年後には新幹線が東京と新大阪を結び、1970年は大阪で万博が開催されました。とにもかくにもこの国に勢いがあって、失われた20年、失われた30年なんて言われる今を生きてるぼくらには、想像もつなない時代でした。
そんな1970年代には日本中に団地と呼ばれる集合住宅が建設され、そこで暮らすことは一種のステイタスですらあったようです。以前ご紹介した「アニウッド大通り」も団地が舞台でした。
今となっては数も減り、手狭で衰退した印象を受ける団地ですが、70年代には住んでる人も多く、子ども達の元気な声が絶えなかったことが想像できます。この「スラム団地」は、そんな団地で子ども時代を送った筆者が、当時のエピソードを面白おかしく伝えてくれる作品です。
子どもの声がうるさいから、公園を閉鎖しろなんてアホなことをほざく老害なんていない時代、色んな問題を抱えながらも、子どもたちはのびのびと生きて、少しずつ大人になっていきます。今よりもおおらかで元気があったのは、団地の住民に限らず、この国全体だったのでしょう。そういう時代に生まれたかったなぁと思ったり思わなかったりした読後感でした。