今回ご紹介するのは「少女終末旅行」つくみず著です。
文明が崩壊した終末世界。ふたりぼっちになってしまったチトとユーリは、愛車のケッテンクラートに乗って広大な廃墟をあてもなくさまよう。日々の食事と燃料を求めて移動を続ける、夢も希望もない毎日。だけどそんな「日常」も、ふたり一緒だとどこか楽しそう。一杯のスープを大事に飲んだり、まだ使える機械をいじってみたり……何もない世界だからこそ感じる想いや体験に出会える、ほのぼのディストピア・ストーリー。
第二次世界大戦期にドイツで開発された半装軌車(前輪はタイヤ、後ろはキャタピラ)のケッテンクラートに乗った二人の少女が、階層化された広大な廃墟をあてもなくさまよう物語です。
誰もいない無人の街を移動するうちに、都市の地図を描く者、飛行機を作って別の都市へ行こうとする者など、時々生存者と出会います。彼らは二人に対して親切というか友好的です。少女たちは文明が崩壊した終末世界を旅するのですが、ヒャッハー!的な敵は存在せず、その旅は全体的にどこかほのぼのとした「日常」として描かれています。
二人はたまに残された文明の武器を誤射するようなやらかしはするのですが、物語はとても静かに進んでいきます。草木のないコンクリートでできた廃墟都市は、廃墟であるにも関わらず、禍々しさは一切感じさせません。無機質でありながら、自然のなかのような印象なのです。
その様子はなぜか村上春樹の「ノルウェイの森」をイメージさせました。直子が入っていた療養所「阿美寮」の建物や、その周辺の景色にどこか似ている気がしたのです。このレビューを書くためにwikiを見たら「本作のメッセージ性について村上春樹の『ノルウェイの森』『ダンス・ダンス・ダンス』、江國香織の『きらきらひかる』から受け継いだものだとインタビューで述べている」と書かれていたので、ぼくの持ったイメージはあながち間違いではないのかもしれません。
様々な文明の痕跡を辿りながら、二人の少女たちは、やがて都市の最上層を目指します。その結果がどうなるのかは皆さんで確かめて欲しいのですが、彼女たちは自分たちの旅に満足しているのが印象的でした。
廃墟はどこまでも静かで優しく、文明も人類も途絶えた世界なのに、絶望とは無縁の優しさを放っています。世界が滅んだ理由も、現代(2023年)からどれだけ離れた時代なのかも、少しずつ明らかになっていきます。
雨の日に静かに読んでほしい物語です。dアニメ枠ですが、プライムビデオでアニメも見られます。こちらもオススメです。